婚カチュ。
「無駄ですよ。あなたは嘘がつけない人間だ」
右手が伸ばされ、頬に触れた。
からだがこわばる。
揺らぎそうになる気持ちを懸命に押しとどめる。
「そんなこと、ない。わたしは、戸田さんと――」
「紫衣さん」
低く名前を呼ばれ、鼓動が響く。
彼の目はまっすぐ私を見据えていた。
「言ったはずだ。あなたのいいところは、素直なところだって」
彼の声に胸をえぐられ、呼吸ができなくなる。
苦しくて、涙がにじんだ。
ひどい男だ。
本当の気持ちを言ったところで、どうすることもできないのに。
わたしは桜田さんを敵に回せるほど、肝が据わっていない。
しかし感情はお構いなしだ。
ダメだと思えば思うほど、彼を求めたくなる。
「わたしは――」