婚カチュ。
彼が離れていくとき、心臓が壊れそうなほど脈打っているにもかかわらず、頭のどこかで冷静にメガネって意外と邪魔にならないんだと思った。
「あ、あの……」
広瀬さんは混乱するわたしの頭に右手をぽんと置いた。
肩に流れる髪を撫でながら薄く微笑み、椅子に戻ると長い足を組んだ。
「さて」と息をつく。
「参ったな。どうするか」
「あの、広瀬さん?」
いまのキスの意味がわからず焦っているわたしに、彼はちいさく笑う。
「ここ、会員とアドバイザーの恋愛はご法度なんですよ」
「え……? あの」
「とりあえず、戸田さんには申し訳ないけど二ノ宮さんには退会してもらうしかないかな」
どんどん話を進められていく。
「ちょ、ちょっと待って。いったい何を」
「俺と紫衣さんが恋愛をするための算段を立ててるんですよ」
耳を疑った。
「ちょ、待って。だって広瀬さんは桜田さんと――」
そのとき、ドアがノックされた。
振り返ると、若さと美貌を湛えた美魔女が恐ろしいほどの微笑を浮かべて立っていた。