婚カチュ。


「――見たわよ」


「さ、桜田さ」
 

恐怖に凍りつくわたしをじっと見つめ、


「ていうか、丸見えだったわ。いちゃつくんならブラインドぐらい下げなさいよ智也くん」
 

すました顔で広瀬さんを見やった。


「え……」
 

怒ってない?
 

広瀬さんとのキスで脈動した心臓が、違う種類の鼓動を響かせる。
何がどうなっているのかわからない。


「あと、紫衣ちゃんには退会してもらわなくていいわ。うちの規則だと余計な違約金をもらうことになっちゃうから」

「ああ、そう」
 

広瀬さんがつまらなそうに答えて、わたしに向き直った。


「けど退会してもらう。違約金なら俺が払うから。これ以上紫衣さんに男が寄ってきたら困る」

「あ、あの」
 

当事者であるわたしを置いてきぼりにして、彼らはどんどん話を進めていく。



< 240 / 260 >

この作品をシェア

pagetop