婚カチュ。


今日もまっすぐ伸びた鼻梁に黒いフレームのメガネをのせている。右頬のほくろはやっぱりセクシーだ。

かたかたとキーを打ち、彼が顔を上げた。


「単刀直入に言います。希望条件の幅を広げてください」

「え……」
 

つい不満を表情に出してしまう。しかし広瀬さんは気にする様子もなく、


「まず、身長180以上というご希望ですね。これを10センチ引き下げてください」

「え、いやです」
 

答えると、広瀬さんの頬に浮かぶ黒点がぴくりと動いた。


「この180という数字はどこからきてるんですか?」

「ええと、わたしがヒールを履いても男性のほうが10センチは高くあってほしいので」

「高いところから見下ろされたい、と」

「え? いや……ええ?」
 

アドバイザーの言葉を反芻していると、彼はすばやくキーボードを入力し、わたしのほうへ画面を向けた。


「二ノ宮さんは日本人の成人男性の平均身長をご存知ですか? ここに書いてありますが、だいたい172センチです。180センチ以上の男性会員ははっきり言って数えるほどしかいません。ヒールを履けないという一時的な感情のために一生を棒に振るんですか?」

「そんな、おおげさな……」

「それから希望年収1000万以上。これは無理でしょう」
 

わたしのプロフィールカードの希望項目をボールペンの先でとんとんと叩く。

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