婚カチュ。


5  ◇ ◇ ◇


テナントビルのエレベーターを5階で降りると、白やピンクの花で飾られた店舗のドアが現れる。
花飾りの看板には可愛らしいロゴで『Feliz~フェリース~』と表記されていた。

確かスペイン語で『幸せ』を意味する言葉だ。英語で相当する言葉はHAPPYだった気がする。

スペインはオーナーの桜田さんが大学卒業後に留学をした国らしい。


曇りガラスの扉を押し開けると頭上で天使の祝福のようにベルが鳴る。
明るい室内は美容サロンのような佇まいで、まるで主人を出迎えにきた執事のように、わたしのアドバイザーが奥から姿を現した。


「お待ちしてました、二ノ宮さん」
 

怜悧な微笑を浮かべ、広瀬さんはわたしをいつものように面談室へと案内する。


「お呼び立てして申し訳ありません。本日は希望条件についてご相談させていただきたくて」
 

個室の丸テーブルには透明のカップにお茶が用意されていた。


「オリジナルブレンドのハーブティーです。疲れが取れますよ」


広瀬さんはわたしに座るように促すと、自身も席についてノートパソコンを広げた。


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