婚カチュ。
わたしは一瞬、いまの状況を疑った。
これはなにかの罠じゃないのか。
はたまた私の頭が考え出した都合のいい夢なんじゃないだろうか。
でも、広瀬さんも桜田さんも実際にそこに立っていて、かすかな熱も、声も、たしかな質量をもって伝わってくる。
「正直つらかったですよ。好きな女性の結婚相手を探すなんてね。だけどあなたが面倒くさい条件を並べ立ててくれていたおかげで、なかなかお相手は見つからなかった。――戸田さんがあなたに興味を持つまでは」
理想が高いと怒っていたくせに、ずいぶん勝手なことを言ってくれる。
わたしが戸田さんの顔を思い出すと同時に、広瀬さんは肩をすくめた。
「まあそれでも変な輩に奪われるよりはマシかな、なんて考えたこともありましたが」
もともと広瀬さんは結婚を打算と割り切る考えの人だった。
だから、わたしのことを好きだと言っても、結婚するつもりはなかったのかもしれない。
――その気が、変わるまでは。