婚カチュ。
「母も、まさか俺があなたにここまで本気になるとは思わなかったでしょう」
そこで広瀬さんは戸口に立つ桜田さんを振り返った。
奇妙な引っかかりを覚えてわたしは叫ぶ。
「ちょっと待って! 母……?」
目が回りそうだ。
だってまさか、そんなはずはない。
驚きすぎて青ざめているわたしに、広瀬さんは「ああ」と気が付いたように言う。
「言ってなかった。以前話したと思いますが、女手ひとつで俺を育ててくれたのは彼女です」
広瀬さんの視線の先で、桜田さんが右手を振って微笑んだ。
気が遠くなる。
にわかには信じられないけれど、確かにふたりの顔立ちはよく似ていて、そろいの美形だった。
「で、でも苗字が違う」
どうにか彼らの嘘を見抜こうとあがくわたしに、広瀬さんはよどみなく答える。