婚カチュ。


「両親が離婚するとき俺はもう小学2年だったから、俺の苗字は父親のもののまま変更手続きをしなかったんです。学校で苗字が変わるとなにかと面倒だから」

「それに智也くんは広瀬じゃないと姓名判断の運気がさがっちゃうのよ」
 

何食わぬ顔で言った桜田さんを、わたしは泣きそうな気持ちで見つめた。


「だ、だって! 桜田さん、広瀬さんはわたしのモノだからって! 諦めなさいって!」
 

わたしの言葉に眉をひそめたのは広瀬さんだった。


「なんだそれ」
 

不審そうに女社長を見ると、彼女は「おほほ」とやけを起こしたように高笑いした。


「だからあ、それはカリギュラ効果を狙ったのよ」

「カリギュラ効果?」
 

わたしと広瀬さんが同時に聞き返すと、彼女は片目をつぶって得意そうに説明する。


「ほら、ダメって言われると逆にやりたくなっちゃうっていう人間の心理のことよ。反対された恋愛ほど燃えるって言うでしょう?」

「な――」
 

わたしは脱力した。


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