婚カチュ。
「だって、わたしは智也くんと紫衣ちゃんは絶対合うと思ったの! だからどうしてもくっつけたかったのよ。紫衣ちゃんにお嫁に来てもらいたいもの」
「な……」
いろいろなことを一度に聞かされて頭がパンクしそうだった。
わけがわからず涙さえこみ上げる。
わたしは広瀬さんをにらみつけた。
「わたしのこと、騙してたんですか?」
彼は驚いたように形のいい眉を持ち上げ、心外だといわんばかりに顔をしかめた。
「言っておくけど、俺はあなたに嘘をついたことは一度もない。あなたのほうが、俺を好きだと言ったんでしょう」
それから思い出したように唇をゆがめた。
「むしろ俺は傷ついたんですよ。好きだと言われて舞い上がってたのに、今度は好きじゃないって言われて、しかもあの男とホテルなんかに――」
雨の日の傘の色が思い出される。
透明なビニールの向こうで、広瀬さんはもしかすると泣きそうな顔をしていたのかもしれない。