婚カチュ。
「で、でも戸田さんに失礼じゃないですか」
金色のバッジが頭の中でひらめいた。
大切なものを臆することなく見せてくれた彼は、わたしに本気でプロポーズをしてくれたのだ。
そして、わたしもそれに応えようとした。
後ろめたい気持ちに襲われて目を伏せると、桜田さんの声が響いた。
「それは平気よ。戸田さんにははじめから説明してあるの。紫衣ちゃんのことを好きな男が他にもいるって。最終的に決めるのは紫衣ちゃんだからって」
耳の奥に戸田さんの声がよみがえる。
――ただ……選ぶのは君自身だ。
「俺は気が気じゃなかったけど、会員規則で婚約成立するまでは肉体関係は禁止だし、実際、紫衣さんには幸せになってほしかったし、本当に好きで彼を選ぶならそれも仕方ないと思ってた。まあ、平気なふりをするのはかなり大変だったけど」
広瀬さんの言葉を半分も理解できない。
もう、頭の中がごちゃごちゃだ。
もっとシンプルに答えを教えてほしい。
わたしは涙目で桜田さんをにらんだ。