婚カチュ。
「じゃあ、なにも問題はないん、ですか?」
「ないわよう」
わたしの睨みはなんの効果もないようで、桜田さんはいきなり飛びついてきた。
「ね、うちにお嫁にいらっしゃいよ。あなたと家族になれたらこれ以上ない幸せだわ」
頬ずりをされて戸惑っていると、急に腕を引っ張られた。
広瀬さんが不機嫌そうな顔で桜田さんをねめつけている。
「やめてくんない。べたべたすんの。ていうか、なんで母さんがプロポーズしてんだよ」
「やだあ、母さんなんてやめて! いつもみたいに香織って呼んでっていってるでしょ」
「1回も呼んだことないだろ」
ふたりのやりとりを聞きながら、わたしは思い至る。
そうだ、桜田さんはこういう性格なのだ。
わたしだってしょっちゅう抱きつかれているし、頬にキスをされたこともある。
広瀬さんにだけ特別にべたべたしていたのではなく、これが彼女の標準なのだ。