婚カチュ。
たとえばこれらの条件をすべて満たす人物が現れたら、わたしは結婚を即決するだろうか。
頭の中に、はじめてお見合いをした総合商社勤務の男性の顔が思い浮かんだ。
白い歯を見せて優しそうに笑う彼の後頭部が、もしフサフサだったなら。
広瀬さんの顔を見て、わたしは首を振った。
「いくら条件が揃っていても、実際にお会いしてみて恋愛ができないようであれば結婚はしません」
「……は? なぜですか」
「だって、やっぱり結婚するなら好きな人としたいじゃないですか」
はっきりと言うと、彼は眉をひそめた。
「また面倒くさいことを言い出しましたね。これだけ細かく条件つけておいて」
「だからそれは、恋愛相手としての最低条件というか」
呆然とわたしを見つめ、広瀬さんはためらうように口を開いた。
「あの、つかぬことをうかがいますが、二ノ宮さんが最後に恋愛されたのはいつですか?」
唐突な質問にすこし迷う。いまの話と関係あるのだろうかと訝りながら、最後に付き合った彼氏の顔を思い出した。
「最後の彼と別れたのはもう4年前ですかね。って、そんなことはどうでもいいじゃないですか」
答えてから急に恥ずかしくなった。4年も男日照りが続いているという事実に自分でショックを受ける。
しかし広瀬さんは茶化すでも馬鹿にするでもなく、ただ確認するように口を開いた。
「その方のこと、本当に好きだったんですよね?」