婚カチュ。
「え……ええ、たぶん」
「たぶん?」
「あ、いや、あの、おおむね」
「……」
なんだか居心地の悪い空気だ。広瀬さんはさらに身を乗り出し、
「あの、好きっていう感情はわかりますよね?」
「わかるに決まってるじゃないですか!」
小学生じゃあるまいし、と憤るわたしに質問を重ねる。
「ここ最近、ドキドキしたことはありますか?」
「あ、それなら、このあいだ、コンビニのATMのところにキャッシュカードを置きっぱなしにしちゃって、すごくドキドキ――」
「そうじゃないですよね」
一刀両断され、わたしは口を結ぶ。
無言の室内に、パソコンのファンの音が響いている。
はあ、とため息を漏らし、広瀬さんはテーブルに置いてあったクリアファイルをめくった。
「わかりました。デートしましょう」