婚カチュ。


「え……ええ、たぶん」

「たぶん?」

「あ、いや、あの、おおむね」

「……」


なんだか居心地の悪い空気だ。広瀬さんはさらに身を乗り出し、


「あの、好きっていう感情はわかりますよね?」

「わかるに決まってるじゃないですか!」
 

小学生じゃあるまいし、と憤るわたしに質問を重ねる。


「ここ最近、ドキドキしたことはありますか?」

「あ、それなら、このあいだ、コンビニのATMのところにキャッシュカードを置きっぱなしにしちゃって、すごくドキドキ――」

「そうじゃないですよね」
 

一刀両断され、わたしは口を結ぶ。
無言の室内に、パソコンのファンの音が響いている。
はあ、とため息を漏らし、広瀬さんはテーブルに置いてあったクリアファイルをめくった。


「わかりました。デートしましょう」


< 30 / 260 >

この作品をシェア

pagetop