婚カチュ。

◇ ◇ ◇

 
窓から差し込む陽射しが徐々に光度を増していく。

姿見の前で孤独なファッションショーをはじめてからもうすぐ1時間が経過するところだった。フローリングやベッドは脱ぎ散らかした服で足の踏み場もない。

デートなんて久しぶりすぎてどの服を選べばいいのまったくかわからなかった。

クローゼットを引っ掻き回しても通勤用のシンプルな装いばかりで華やかな服が一枚もない。自分がいかに色気のない生活をしていたのかを突きつけられて気持ちが塞いだ。

でも落ち込んでいる場合じゃない。


待ち合わせの時間が迫るにつれて焦りが広がるけれど、わずかな高揚も感じていた。

会社でも相談所でもない場所で、男の人とふたりきりで会う。

考え始めると心臓がうるさく鳴りはじめる。胸を弾ませながらデートの服装に悩むなんて、まるで中学生だ。

しかし相手はあの広瀬さんだった。
適当な服装で出かけたら、きっと冷たい目でぐさりと心をえぐる一言を吐くに違いない。きれいな顔をしてわたしのアドバイザーは容赦がないのだ。


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