婚カチュ。
鬼のようなアドバイザーを思い浮かべながらクローゼットの奥を探り、衣装ケースを引っ張り出す。
3年前のワンピースはデザインがすこし古いけれど、淡いピンク色の花柄でわたしが持っている衣装の中では華美なほうだ。ショールやネックレスの小物を合わせればなんとか着られるだろう。
急いで着替えてメイクをし、洗面所で髪を丁寧にブローする。朝からドライヤーを使っているのが珍しいのか、母親がひょっこりと顔を覗かせた。
「あら、紫衣ちゃん。お休みなのにお出かけ?」
鏡越しに目が合い、わたしは振り向かずに答える。
「うん、ちょっと鬼アドバイザーと会ってくる」
「え、お、オニっ?」
目を白黒させている母親に「行ってきます」と言って玄関に向かった。
靴を履いていると、背後からぱたぱたと足音が駆けてくる。
「待って紫衣ちゃん。レオを連れて行きなさい」
振り返ると母親が心配そうにわたしを見つめていた。
「やだな、別に鬼退治に行くんじゃないんだから」
苦笑するわたしに厳しい表情を見せ、手をぎゅっと握りしめる。
「お願い、連れて行って」
強い口調に、思わずうなずいてしまった。