婚カチュ。
広瀬さんとの待ち合わせ場所は駅前だ。
商店街を抜けていくと、階段の前で先に待っていた彼がわたしを見つけ右手を上げた。
それから当然のように眉をひそめる。
「あの……そちらは?」
わたしのとなりを見下ろしてつぶやく彼に、何食わぬ顔で家族を紹介する。
「あ、うちのレオです」
「はあ、そうですか。というか」
広瀬さんの眉間にはしわが刻まれたままだ。
「なぜ犬を連れてきたんですか」
礼儀正しくお座りをしていたレオが、不意にわたしの足元をぐるぐる回りだす。毎日のブラッシングにもかかわらず、稲穂色の毛並みがすこしもつれていた。
「母に、連れて行けと頼まれまして」
わたしは広瀬さんの背後を指差した。
「出かけるついでにそこのサロンに置いてきてほしいって」
うちの母親はすこしばかりとぼけた性格をしている。彼女は紛らわしいセリフで駅ビルのなかにある行きつけのペットサロンにレオを預けてきてほしいとわたしに頼んだのだ。
「迎えは母が行くそうなので、預けるだけ預けてほしいと言われてしまって。すみません、約束の時間なのに」
「いえ、それはかまいませんが」