婚カチュ。
二枚襟シルエットのシャツにカジュアルなジャケットとジーンズを合わせた格好の広瀬さんは今日、メガネをかけていない。美貌をむき出しのまま、彼は意外にもレオに笑いかけた。
「かわいいですね」
そのとき、「うぉふっ」と声を発してレオが広瀬さんに飛びついた。
「おっ」
「あ、こら」
わたしの制止を無視してレオは太い前足でがっしりと広瀬さんの腰をつかみ、激しく尻尾を振っている。
「す、すみません」
つぶらな瞳を爛々とさせ、レオは鼻息荒く広瀬さんにまとわりつく。
彼は驚いたように目を丸め、それから苦笑を漏らした。
「なんか、急に興奮しはじめましたね」
「ごめんなさい、喜んでるんです。イケメンに褒められたから」
リードを力いっぱい引き寄せてレオを引き剥がす。愛犬はイケメンから離れがたいというように前足を空中で掻いてもがいた。
「この子、イケメンが好きでなんです」
「イケメンて、え、メスなんですか」
きょとんとする広瀬さんにわたしは真顔で答える。
「いえ、オスなんですけどね」
「わほっ」と返事をするようにレオが一声鳴いた。