婚カチュ。
「すごい、広瀬さん、20代でまさか」
駐車場の奥に駆け出したわたしを彼が呼び止める。
「こっちですよ」
「え」
振り向くと、広瀬さんは白い車の傍らに立っていた。なんの変哲もない白のハッチバックは、車体の横におもいきり『フェリース』のロゴが入っている。
「めちゃくちゃ業務用ですね」
ポルシェのことはおくびにも出さず、わたしは促されるまま助手席におさまった。車内はこざっぱりと片付いている。
いつも向き合って座っている彼の位置がとなりに変わっただけで、やけに心臓が脈打った。
すぐ横に感じる広瀬さんの息遣いに緊張する。
業務用の車というところはいただけないけれど、乗り込んでしまえば気になるのはとなりの彼の存在だけだ。
ただでさえ緊張すると口数が減ってしまうわたしなのに、このままふたりきりでドライブなんかして大丈夫だろうか。
そう思っていると、広瀬さんはシフトレバーを動かしてつぶやいた。
「道具とウェアはトランクに積んであるんで、大丈夫ですから」
「え? 道具? ウェア? どこに行くんですか?」
話を読めずにいると、意地悪な笑みを浮かべる。
「行ってみればわかりますよ」
そう言って、広瀬さんはアクセルを踏み込んだ。