婚カチュ。
彼の運転はうまかった。
細やかなハンドルさばきと振動を感じさせないブレーキ遣いに否応なしにときめいた。
あとでお相手の希望条件に『運転がうまいこと』を付け加えておこう。
そんなことを考えているうちにたどり着いたのは、都内にある大きな運動公園だった。
「ええと、あの、ここは」
駐車場で車を止めると、広瀬さんはリアゲートを開いて中から紙袋を取り出した。
「更衣室がありますから、そこでこれに着替えてください」
「え……」
どうやら広瀬さんも着替えるらしい。同じ紙袋を取り出して、ゲートを閉じる。
渡された紙袋の中にはタオルとTシャツとジャージの上下、靴下にシューズまで入っていた。
小さな事務所のようなところに併設された更衣室で言われたとおり着替えると、どう見てもスポーツウーマンの装いになる。
荷物をロッカーに預け外に出ると、広瀬さんも色違いのウェアに身をつつんで準備体操を行っていた。
「いったい何をするんですか?」
わたしの問いに、彼の長い指が生い茂った樹の向こうを示す。