婚カチュ。
「コートを予約しておいたので、軽く運動しましょう」
黄色い毛羽立ったボールとラケットを2本背負って歩き出す彼にあわてて続く。涼しげな目に横目で見下ろされ、心臓がちいさく跳ねた。
「二ノ宮さん、大学時代はテニスサークルだったんですよね」
「え、ええまあ。でも遊びサークルっていうか、飲み半分交流半分のあまり真剣なサークルじゃなかったんで」
「それでも経験者には違いないですよね。最近は運動されてますか? たまにはからだを動かすのもいいことですよ」
確かに誰かとテニスをするのは久しぶりだ。
金網のドアをくぐってクレーコートに足を踏み入れると、自然と気持ちが引き締まる。ざらついた砂の懐かしい感触に忘れかけていた熱い何かがこみあげる。
「広瀬さんもテニスをやっていたんですか?」
ラケットのカバーをはずしながら訊くと、彼は首を振った。