婚カチュ。
6 ◇ ◇ ◇
乾いた大地に雨が降った。
干からびてひび割れていた土に、つかの間、やわらかな潤いが戻る。それが一時的な微雨なのか、永続的な慈雨なのかは、まだわからない。
ただ、ひどく愛おしい感覚だった。
寝ても覚めてもひとりの男性の笑顔が頭から離れないなんて、そんな可愛らしい機能が自分の脳にまだ備わっていたとは。
わたしが所属する営業推進部、推進2課は、去年から残業が認められなくなった。
どうしてもその日に終わらせなければならない仕事がある場合は、事前に課長に申告しなければならない。
残業がなくてラッキーと思う人間もいるかもしれないけれど、仕事の量は変わらないため、終わらなかったぶんは持ち越されて翌日がよけいに忙しくなるだけだった。
それでも間に合わない場合はサービス残業をするはめになる。課長に申告するとネチネチと文句を言われて面倒くさいのだ。
そんな上長のせいでサービス残業に追い込まれたわたしは、誰もいないフロアでひとりパソコンと向き合っていた。