婚カチュ。


モニターの明かりが、厚さ5センチになろうかという資料の山を照らしだしている。各営業支社から送られてきたアンケート結果だ。

これらを集計したものを課長が明日朝イチの会議で使うらしい。にもかかわらず、そのことをすっかり失念していた彼がわたしに集計を押し付けてきたのが定時の10分前だった。

「私はこれから打ち合わせだから」と言ってそそくさと帰っていった課長が今日、同期会でカラオケ三昧のあとにおネエさんのいるお店に行くことを、わたしは知っている。


「課長ううううう」
 

うなり声を上げながら数値を入力していく。ひとつひとつは単純な作業だけれど、なにせ量が多い。考える必要がないぶん、苛立ちばかりがつのっていく。
 

今日は遅れないようにって広瀬さんから言われてるのに。
どうして用事がある日に限って面倒な仕事を押し付けられるのだろう。

猛烈なスピードでブラインドタッチをしていると、不意に室内が明るくなった。


「電気も点けないで、何してんすか」
 

振り返ると、入口に松坂翔太が立っていた。



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