婚カチュ。
「ああ、おつかれ。最後に出てった人間がクセで消しちゃったみたいよ。そこまで点けに行くのが面倒でさ、つい」
わたしはパソコンに向き直って入力を続けた。ドア脇の電気スイッチの横には、でかでかと『節電』と書かれた紙が貼ってある。
「誰かに用事? もうみんな帰っちゃったよ」
背中を向けたまま訊いた瞬間、視界がふたたび暗くなった。
「ちょ、なんで消したの」
思わず振り向くと、彼の声が弾んだ。
「なんか、楽しそうなんで」
薄闇のなかを近づいてくる松坂の表情は、非常灯の明かりだけではよく見えない。
慣れないフロアでつまずかないようにゆっくりと歩きながら、後輩は明るい声を響かせた。
「何か手伝いましょうか?」
「ううん、あとちょっとで終わるから」