婚カチュ。
薄暗いフロアでわたしの周囲だけがパソコン画面に青白く照らしだされている。
目が悪くなるかもな、と思いながら最後の項目を一気に仕上げた。データを保存してメーラーを起動し、ファイルを添付して課長に送付する。
そのあいだ松坂は口を挟まず、海底に潜む深海魚のように背後でじっとしていた。
「よし、終わり。あーつかれた」
「おつかれさまです。先輩、このあとは空いてますか?」
明るい声に振り返ると、松坂はすぐ後ろの席に座っていた。
「あ、ごめん今日も予定入ってる……あれ、まさかわたしに用事だった?」
「あ、いえ。今日は出先から直帰で、たまたまこの近辺にいたから寄ってみただけで」
言葉を途切れさせ、松坂はわたしを見つめた。モニターの弱い光に照らされた顔は疲れているのか、やたらと青白い。
彼は思案するように一度唇を結び、やがて小さく口を開いた。
「先輩、今日……唇テカってますね」
指摘され、ついからだを引いた。