婚カチュ。
腕を取られたまま立ち尽くす。
真っ暗ではなかった。
非常口を示す緑のランプと、窓の外の月明かりで廊下側と窓側の席だけぼんやり浮かび上がっている。
松坂のからだは濃紺のシルエットに変わってわたしの腕をしっかりと捕らえていた。
消える前に一瞬見えた表情が、脳裏に焼きついている。
泣くのを我慢しているような、寂しげな顔だった。
「松坂?」
「女のひとは、ずるいですよね」
ぽつりと、静かな声が聞こえる。それは暗く沈んだフロアに悲しげに漂った。
「男なんて単純なんで、相手が自分に好意を寄せてるって気付いたら、自然にその子を意識して勝手に好きになっちゃったりするんですよ」
突然のモノローグに首をかしげる。
「……なんの話?」
わたしの言葉を無視し、彼は続けた。