婚カチュ。


「けど女のひとはそうじゃない。男側が好きだって言ったところで、自分が好きじゃなきゃ振り向きもしない」

「松坂?」
 

話が見えないし、顔も見えない。

パソコンデスクのシルエットに囲まれたフロアの真ん中で、つかまれた腕にだけ自分以外の存在を感じる。


「女のほうが好きな相手を落としやすいって話です。男のほうが、好きな女に振り向いてもらえない」
 

語気が強まったかと思ったら、いきなり腕を引っ張られた。


「わ」
 

さっきまで座っていた椅子に膝がぶつかる。キイと音を立てて、椅子がゆっくりと半回転する。

紺と黒のシルエットの世界で、よろけるようにして松坂の胸にしがみついた。



「あ……」
 

つかんだシャツを離すことができなかった。
彼の片手が後ろからわたしの腰を抱いている。

 
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