婚カチュ。



「あ、ごめんなさい、手が滑っちゃって」
 

空になったグラスをテーブルに置き、おざなりに紙ナプキンを渡していると係りの人間があわてた様子で駆け寄ってきた。

わたしは妙に冷えた気持ちでこぼれた飲み物が処理されていく様子を眺めていた。



意外にも度量が備わっているのか、それとも周りの目が気になったのか、男はわたしにクリーニング代を請求することはなかった。
そもそも安物のスーツらしいから、ウーロン茶をこぼしたくらいならクリーニングに出さないかもしれない。


憮然としている男を見てすこしは気分が晴れたものの、まだ腹が立っている。
 
婚活に疲れたからって自分勝手に女性を振り回すなんて何様だ!
女をなんだと思ってる! 
ナンパが目的ならほかでやれ!


腹の中でつぶやいて、新しい飲み物を手に取った。
アルコールじゃないことにまた腹が立つ。
 
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