婚カチュ。
「彼の態度について、ほかの女性会員から何度か苦情が入りましてね。結婚相談所の意義をすこし履き違えていらっしゃるようなので、社長が自ら対応していたんですけど、どうも理解してもらえないようで」
あ、そうそうと言って、広瀬さんは思い出したように微笑んだ。
「あなたが彼にウーロン茶を浴びせたと聞いて、社長は大喜びでした。さすが紫衣ちゃんって言ってましたよ」
広瀬さんの声が突然わたしの名前を呼んで、心臓が飛び跳ねた。
静まっていた池に小石が投げ込まれたように、胸から全身にかけて鼓動が波紋のように広がっていく。
正面に座っている現実の広瀬さんは、わたしが想像していたよりも表情が豊かな生身の人間で、気持ちがおおきく揺さぶられた。
でもまだ大丈夫。まだ引き返せる段階だ。
なにかちいさな出来事ひとつで、広瀬さんに灯った淡い感情はあっけなく消えうせるに違いない。
自分に言い聞かせていると、彼の冷たい声が耳に入った。