婚カチュ。
「シミュレーション?」
「はい、あの、お相手の方と会ったときにちゃんと質問できるように……」
「はあ、そういうことでしたら」
ぴんと伸ばしていた背筋をいくらか緩め、広瀬さんはかけていたメガネを外した。
流れるような動きが様になっていて、つい見とれてしまう。
メガネで増幅されていた目元の印象が薄れ、頬に浮かぶほくろに意識が向かう。
きめ細やかな肌にぽつんと落ちた黒点は、汚れのない真っ白な布に墨を一滴落としてしまったときのような、どこか罪悪感にも似た、スリリングな気持ちをわたしに抱かせる。
生々しくて、魅惑的で、無意識に吸い寄せられる――
そんな感情を抱いている自分に、ぞっとした。
もしかするとわたしはほくろフェチなのかもしれない。
「聞きたいことがあるなら、どうぞ」
声をかけられ、我に返った。
「あっと、あの、広瀬さんのご家族は?」
尋ねながら、嫁姑問題について嘆いていた希和子の声がよみがえった。
――相手の家族との関係とかもあるしさぁ
「兄弟とか、いらっしゃるんですか?」
わたしの質問に、彼は考えるように一度視線を逸らし、ゆっくり向き直った。