婚カチュ。
 

「兄弟はいません。ひとりっこです。両親は俺が7歳のときに離婚して、母が女手ひとつで育ててくれました」
 

表情に出たのだろうか、広瀬さんは小さく笑った。


「いいですよ別に。気にしないでください。俺にとっては普通のことです」

「犬を」
 

ぽつんと言ったわたしに、彼は「はい?」と訊き返す。


「犬を、飼いたかったんですよね」

「ああ……覚えてたんですね」
 

凛々しい眉を下げ、どこか寂しそうな表情になる。

シミュレーションデートのときに、わが家のレオを見て微笑んだ彼が思い出される。
いまと同じようにメガネを外した広瀬さんは、とても爽やかな好青年に見えた。


「小学生くらいのときかな。流行ったんですよ。ゴールデンレトリバーが出てくるドラマが話題になって」
 

そう切り出して、広瀬さんは窓の外を見るように視線を放った。


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