婚カチュ。
「ドラマが放映されているとき、ちょうど近所の家でゴールデンレトリバーが子どもを産んだんです。飼い主を探していて、それを聞きつけた僕はオスの仔犬を一匹、家に連れて帰りました。
そうしたら母親にひどく叱られたんです。うちにはペットを飼う余裕はないから返してきなさいと。それで小学生だった俺は母親に向かって、うちに余裕がないのはお前のせいだろ! と反抗したわけです」
自嘲するように笑いながら、アドバイザーは続ける。
「あのときの母親の悲しげな顔が忘れられなくて。思えば、あれが最初で最後の反抗でしたね。罵声を浴びせたのは自分のほうなのに、ひどく傷ついた気持ちになりました」
そう言って、弱々しく笑う。
わたしはなにも言えず、ただまっすぐ広瀬さんを見つめた。
彼は一度視線を落とし、懐古するように穏やかな口調になった。
「でも当時はやっぱり寂しかったんですよ。母は忙しくてあまり家にいないし、夏休みには祖父母に預けられてずっと会えなかったり。まあ母は男に舐められないようにと頑張って働く女性だったんで。
いまならその気持ちも分かるんですけどね。さすがに子どものころは分かりませんでした。それが自分のためだったということも」