【企画】魔法が醒めるとき
大分、酔い潰れたメンバーが居る中、あたしは全然酔えなくて。
テラスに出ると、まだ少し肌寒い春の風があたしの頬を擽る。
「風邪引くよ?」
ボーッと空に浮かぶ月を見ていたあたしの背後から聞こえた声に、驚いて振り返ると
「これ、かけたら?」
そう黒い大きなマフラーを差し出す、その人。
「光……さん?」
が居たんだ。
「光でいい」
「あ、はい」
低い透き通る声に、体中に電気が走ったような感覚に陥る。
「何してんの?」
見つめられた、その目にクラクラ眩暈がする。
「……大丈夫?」
「え、あっ。はい」
パッと目を逸らし何度も頷くと、光はクスクスを笑った。
黒のマフラーを肩へとかけると、男物の香水の匂いが微かに鼻を擽る。
「これって?」
キョトンとした顔で、光を見つめると
「ん? 俺の。会社に置き忘れてたのを持って帰って来たんだ。
って、別に汚くないしっ。
あ、てか臭い!?」
なんて、必死にフォローするから思わず笑ってしまった。
噴出して笑う、あたしを見て眉間に皺を寄せた光は、ほんのり頬を赤らめた。
「んんっ。何だよ」
ぶっきら棒に言った言葉に『いいえ』と笑いながら答えた。