ある日のできごと

翌日の午後5時。

予備校をサボって駅の表へと出ると、日に焼けた金髪の男性がガードレールにもたれて立っていた。

此方から話しかけることなど何一つない。

私は素知らぬ顔をして、彼の前を通り過ぎる。

その一瞬間に、彼と私の目はピッタリと合ってしまった。

「無事だったんだね」

その声に、思わず足を止めた。

男性はキャップを目深に被ると、顔に影を落とした。

時計をしていない左腕には、5時20分という文字が達筆に書かれていた。

「良かった」

かすれた声で、ソッと呟くと、彼は私の横を通り抜け、人混みの中へと消えて行ってしまった。

それと入れ替わるようにして、目の前にあった交番からお巡りさんが出て来た。

「すみません」と声を掛けられ、私はすぐに姿勢を伸ばす。

「○○塾の学生さんですよね?
昨日の今頃、駅裏でちょっとした騒ぎがあったんですが、何かご存じありませんか?」

お巡りさんと目を合わせ、私は小さく首をかしげた。

「何も、知らないんです…」

本当のことを口にしてから、自分でも不思議に思った。
事件の犯人のことも、被害者のことも、概要さえも、私は誰にも教えて貰えなかった。

ただ知っているのは、あの日、私が交番の前に立っていたということ。
その時間が、5時20分だったということ。
< 7 / 7 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:4

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

かまってくれてもいいですよ?

総文字数/24,531

恋愛(純愛)24ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
不自由の多い中で猫のように奔放に過ごす女の子と、見た目も中身もライオンのような肉食系男性の、縦の関係です。
さかやどり

総文字数/2,648

恋愛(実話)10ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ただ優しい人に頼りたかっただけなのに、彼は待ち合わせ場所へ来てはくれなかった。
島渡り

総文字数/8,825

その他24ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
中学2年の夏に、学校へ自由研究の一環として提出した作品です。 改めて読んでみると拙い内容ですが、また日にちを置いてリメイク版も公開する為に、思い切って掲載してみます(;´▽`)ノ

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop