いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「母さんは、どうしたい…?」

ぎゅう、と袖を引かれてふと考え込む。

自分のしたいように、と振られると存外咄嗟には答えが出てこないものなのだなと思った。

“娘のために”を理由にして何かを諦めたりだとか我慢しているとか、そんなつもりは一切ないのだが。

娘はそう感じているかも知れない…というか十中八九そう思っているだろう。

「あたしは…」

――はるが、元気で笑っていてくれるなら、それだけでいいんだよ――

出掛かったその言葉を飲み込んで、仄はくすりと笑みを浮かべて見せた。

「そうだなあ、炎夏に行ったらいくつか行ってみたいところがあるんだよね。はる、母さんの我儘に付き合ってくれる?」

「…!うんっ」

仄の願いを聞き届けた娘は嬉しそうに顔を綻ばせると、大きく首を縦に振った。

「それじゃあ、明日になったら早速色々と準備しなきゃな。だから早く寝ないと」

「分かった…ちゃんと眠れるかなあ」

「小さい頃みたいに、子守唄歌ってやる?」

「いっ、いいよぉ…赤ちゃんじゃないんだから」

夜泣きはするけどな、と心の中でだけ茶々を入れつつ、仄は娘の頭をぽんぽんと叩いた。

「はいはい。じゃあ寝るか」

「うん」
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