揺れて恋は美しく
大きな門構えは風格があり、その先の広い中庭には池や盆栽と和を感じさせられる。そして、木造家屋の古風な家は長く大きくと存在感を示し、それと同時に積み重ねた歴史も感じさせる。
広い中庭を目の前に一望出来るその部屋に、恰幅の良い白髪の老人があぐらをかいて居た。

「失礼します。お父様」

部屋にスーツ姿で年配の男性が入って来て、白髪の老人の前に正座をして座った。

「お前か。何の用じゃ?」

「昨今の度重なるトラブル。裏に北条の名が」

「それがどうした?」

「やはり、お気付きでしたか…」

「北条財閥は、今や桐島と肩を並べうる存在じゃ」

「だからと言って、このまま見過ごすおつもりですか?」

「物騒な物言いよのぅ。わしは乗ってやろうと思っておるのじゃ」

「乗ってやる? それは息子の、蒼太の見合いの事ですか?」

白髪の老人はお茶を飲んで湯呑みを置くと、貫禄たっぷりに両腕を組んで答えた。

「北条家に一人娘が居るのは知っておるな?」

「勿論です。息子の見合いの相手ですから」

「本当の娘でない事も、知っておるな?」

「はい。確か、妹の子だったかと」

「うむ。奴には自身には子供がおらんかった。だから娘を引き取った。つまり北条には」

「後取りがいない?」

「そう言う事じゃな」

「しかし、だからと言って、何故息子なのでしょうか? それに、脅しにも似たこの行為」

「焦っておるのじゃよ。自分の命が長くない事を知ってな」

「と言うと、病にでも?」

「うむ。そして、蒼太を選んだ理由は恐らく、桐島だからじゃ」

「桐島だから…。北条の名を継ぐに相応しいと?」

「それもあるじゃろうが本当の所は恐らく、血の繋がらぬ一人娘の幸せを想っての事じゃろう」

「一人娘の幸せを?」

「そうじゃ」

「…そうなのか? しかしお父様の情報網には、誠に感服いたします」

「お前、気づかなんだか?」

「は?」

「外に、車が止まっておったろ?」

「はい。私と入れ違いに…」

「あれは北条じゃ」

「はっ? で、では、お父様は全て直接本人から?」

「うむ。小細工をしようとも一向に返事が無い事に、相当焦っておったようじゃて、遂には自ら懇願しに来たと言う訳じゃ」

「なんと…」

「桐島にとっても必ずやプラスになる事じゃて、わしはのう…、力になってやりたいと思うた。お前はどうじゃ?」

「私は。…いえ、息子の蒼太に任せます。幸い私にはもう一人、蒼太の兄が居ますので、蒼太さえ良ければ私は何も言う事は有りません」

「うむ。蒼太次第か…」

「はい」

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