極上の他人
身体を再びカウンターに向けると、目の前にある茶わん蒸しを手元に寄せた。
「熱いから気を付けて」
千早くんの言葉に小さく頷きながら器の蓋を取ると、なめらかに蒸しあがった茶わん蒸しが湯気をあげた。
「ふみちゃんが好きな銀杏が入ってるよ。もちろん、作ったのは輝さん」
「あ、本当だ」
茶わん蒸しの中には私が大好きな銀杏が幾つか入っていた。
おばあちゃんが作ってくれた茶わん蒸しにはいつも入っていて、おばあちゃんの味と言えばこの銀杏の味。
そう言った私の言葉を覚えてくれていたのかな。
そっと口に入れて、おばあちゃんの思い出と、輝さんの優しさを同時に味わう。
「ん、すごくおいしい」
熱さにふーふー言いながら食べる私の前には、カレイの煮つけとツナサラダ、そして、これもまた私の大好物のわかめと豆腐のお味噌汁が並べられる。
全て私のために輝さんが用意してくれた、私のための夕食。
お酒がメインであるお店のメニューにはない和食がカウンターの片隅に並び、周囲のお客さんたちは一瞬驚きの声をあげる。