極上の他人
『裏メニュー?私も食べたいなあ』
そう言って、私の夕食と同じメニューを食べたいとせがむお客さんもいるけれど、その都度輝さんはやんわりと断っている。
『このカウンター席は特別なんだ。そして、彼女しかこの席には座れない。俺の大切な彼女だけの席だから』
はっきりと、そしてそれ以上の質問は一切受け付けないとでもいうような輝さんの黒い笑顔に気圧されて、お客さんたちはそれ以上何も言わない。
というよりも、言えない。
そして、そんな輝さんの言葉は、私に構うなという周囲への牽制ともなり、お客さんの間では暗黙の了解事項となってしまった。
私がカウンターの端で何を食べていても、『今日もおいしそうだね』という言葉と笑顔は向けられても、輝さんにねだる人はいなくなった。
ただ、妬みにも似た視線を背後に感じる機会が増えたのは確かだ。
……まあ、輝さん目当てでこのお店に来ている女性にしてみれば、私の存在は目障りで仕方がないだろうし、と諦めているけれど。
それでもやっぱり、お店に入った途端女性たちに声をかけられ笑顔で相手をしている輝さんを見ながら胸を痛める。