極上の他人
「好きだって気付いたばかりなのに、お店でも女の子からたくさん声をかけられるし。
それに、いきなりこの展開だもん。恋愛初心者に輝さんは難しすぎるよ」
「この展開も何も、輝さんだってきっとふみちゃんのことが好きだよ」
「ん。好きだと思う。だって、私は誠吾兄ちゃんの姪っ子だもんね。それに満足していればよかったのに、私は調子に乗りすぎたかもしれない。
輝さんのことを好きになって、会えるのが嬉しくて毎日の夕食が楽しみで」
一息でそう呟いた私は、手元のお水を飲んで小さく息を吐いた。
素直に自分の気持ちを口にして、ああ、私は本当に輝さんが好きだと実感する。
初恋ではないにしても、ずっと側にいて欲しいと思える初めての人だ。
同情ではなく、私のことを心から大切に思ってくれた輝さんの気持ちを疑うつもりはないけれど、きっと彼には私よりももっと優先したい、大切な人がいるに違いない。
それが、あの女性なのだとしたら。
「顔を見なくて良かった……」
後ろ姿を見ただけも強烈な残像として残っている彼女の姿。
耳元にきらりと光ったパールのピアスがアップの髪形に良く似合っていた。
輝さんが女性と寄り添う姿を見て、それだけでも心はざっくりと傷ついたというのに。
どこか冷静な私は、彼女の顔を見なくて良かったとほっとする。
彼女の顔を見てしまったならば、しばらくはその顔が目の前から消えることはないにちがいない。