極上の他人


だからといって、笑顔を作ることも難しいけれど。

「誠吾兄ちゃんが夕べ電話で言ってた。輝さんは優しすぎる性格が災いして、幸せにたどり着くまでに遠回りし過ぎてるって」

「遠回り……」

「うん。誠吾兄ちゃんに頼まれて私のことを気にかけてくれる優しさはありがたいけど、そのせいで輝さんが何かを犠牲にするのなら私もつらいし」

「いや、輝さんとあの女性は別に……」

「いいの。あの女性だって輝さんと一緒にいたいからこうしてお店にまで来たんだろうし。好きな人が他の女の子を構っていたらいい気持ちじゃないだろうし」

私は輝さんにとっては手のかかる置き土産なのかもしれない。

お見合いで知り合ったとは言っても、結局は誠吾兄ちゃんの姪っ子であり輝さんにとっては保護欲をかきたてられるだけの存在に過ぎない。

「ふみちゃんは、輝さんのことが好きなんだろ?」

「え……あ、やっぱりばれてたんだ」

私を気遣う千早くんの優しい声に照れつつも、正直に答えた。

これまでの私なら自分の気持ちを正直に話すなんて考えられないけれど、思いがけない衝撃を味わえば、人間って自分をさらけ出すことを躊躇しなくなるのかもしれない。


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