極上の他人
「池に夕日が映りこむと、池全体が赤くなるんだ。この橋の上に立つ人の顔も赤くなるから、照れて赤くなってもわからない。最初はそんな理由がきっかけだったんだけど、最近じゃこの橋の上で告白するとうまくいくって、若いカップルの定説になってるらしい。
もしも告白したい人でもいれば、ここで頑張ってみるといいぞ」
「……もしかして、水川さんもうまくいった例のひとりですか?」
からかうような艶ちゃんの声に、水川さんはのどの奥で小さく笑った。
「ああ。去年の今頃告白して、先月結婚したばかりだ」
そう言って、かざした左手にはプラチナリングがきらり。
「今、京極さんが立っているところに嫁さんが立っていたよ。はは、思い出すと今すぐ帰って会いたくなるな」
幸せそうに目を細めた水川さんに、私も艶ちゃんも照れてどう言葉を返していいやら困った。
「ご、ごちそうさまです」
そう言って二人で顔を見合わせ大声で笑った。
「じゃ、水川さんが早く帰るためにもお手伝い頑張りますね。きっと奥さんも待ってますよ」
笑いをどうにか抑えながら私が呟いた言葉に、水川さんは照れつつも「よろしく」と言い、頭をごしごしと掻いている。
私が立っている場所で告白された奥さんはその時、左手には日差しの反射で眩しい池、そして目の前の水川さんがいて。
こんな素敵な場所で告白されたなんて、幸せだっただろうな。
会ったこともない人だけど、なんだか羨ましくなる。