極上の他人


両手でぎゅっと握りしめながら口元を引き締める様子がどこか必死に見えて、私はハンカチをとろうとしていた手を動かす事もせず彼女を見返した。

「えっと、このハンカチ、ちゃんと洗ってお返しします」

「あ、いいよ、別に。ハンカチくらい洗濯機にぽい、だから気にしないで」

「いえ、ちゃんと綺麗にしてお返しするので、連絡先を教えてください。
あ、ここに来れば、また会えますか?」

頑なにハンカチを握りしめる彼女の様子に気圧されるように、私と艶ちゃんは顔を見合わせた。

若い子にしては礼儀正しいというか、真面目すぎるというか。

ハンカチくらい、気にしなくてもいいのに。

「ハンカチなんて何枚もあるし、急がないから。洗ってくれなくてもいいよ。
この展示場が気になってわざわざ走ってきてくれたんでしょ?それだけで嬉しいし、十分」

「でも、私……」

「そんなに気になるなら洗ってくれてもいいけど、別に返してもらわなくてもいいよ。良ければ使って」

ね?と彼女に言うと、彼女は悲しそうな目を私に向け、小さくため息を吐いた。

俯き、ぎゅっとハンカチを握りしめる姿はかなり可愛くて、思わず駆け寄りたくなるほどだ。

染めたことのないような黒髪がさらりと肩から落ちて、色白の肌をさらに際立たせる。

高校生ってだけでも羨ましいのに、本当に綺麗な子だな。

< 203 / 460 >

この作品をシェア

pagetop