極上の他人
そんなことをちらりと考えていると、彼女はそっと視線を私に向けた。
「あの、私、風間真奈香と言います。このハンカチ、やっぱり洗ってお返ししたいので、えっと。お時間のある時にでもここにご連絡ください」
彼女、風間真奈香ちゃんは、鞄の中からメモ帳とペンを取り出して、メアドと電話番号を書いた。
そして、それを私に差し出した。
「私の連絡先です。お電話下さったら、ハンカチをお返ししますので、よろしくお願いします」
「え、そんなに気を遣わなくていいから」
「気は遣ってません。いつでもいいので、ご連絡お待ちしています」
真奈香ちゃんは固い声でそう言うと、「失礼します」と言い残して踵を返した。
背を向ける瞬間に私を見ながら苦しげな表情を見せたような気がした。
ハンカチを汚したことにそれほどの罪悪感を覚えているんだろうか。
真奈香ちゃんが今来た道を走り去る後ろ姿と、押し付けられるように渡されたメモを交互に見る。
なんだかすっきりしない気持ちのまま遠くなる彼女の姿を見ていると、艶ちゃんがぽつりと呟いた。
「あの制服、虹女だね」
「え?にじじょ?」