極上の他人
「よっぽどふみちゃんのことが大切なんだね」
「え?」
いつの間にか私の耳元に口元を寄せた艶ちゃんがそうささやいた。
「これだけ忙しいお店をバイトの男の子に任せてふみちゃんを迎えにきては夕食を食べさせて、おまけに家までちゃんと送ってくれるなんて、かなり無理してるはずでしょ?」
「あ……うん」
「そこまでしてくれるなんて、よっぽどふみちゃんのことが好きなんだよ。あー、羨ましい」
艶ちゃんと千早くんが、ふたりして同じような声で笑っている。
私を冷やかしているとあからさま過ぎて、怒る気にもなれない。
「……輝さんは私のことを、大学時代の先輩の妹としか見てないよ」
肩を落として呟く私に、二人は顔を見合わせながらくすりと笑った。
「……まあ、いいんだけど。ふみちゃんにはふみちゃんのペースがあるしね」
「だな。とりあえず、お待ちかねの輝さんにその可愛い顔を見せて安心させてあげてくれよ。ちらちらこっちを見ながら焦れてるし。ほら、俺なんか睨まれてるしさ」
私の背中を軽くおしやりながら、千早くんはカウンターに向かって歩き出す。
それにつられて、私と艶ちゃんも輝さんの元へと歩を進めた。
カウンターの向こうから私に向けられる輝さんの視線はとても優しくて、私は目が離せない。