極上の他人
「私一人でもナンパされること多いけど、ふみちゃんが一緒だと、さらに声かけられるから大変なのよね。ここにたどり着けるか不安になるくらいだったんで、次回からは輝さんのお迎え、お願いしますね」
目の前の輝さんににやりと笑った艶ちゃんに、輝さんはチッと舌打ちして大きく息を吐いた。
「わかった。明日からは、俺がちゃんと迎えに行くから、出張の時にも連絡しろ。ナンパなんてとんでもない、史郁に声をかけるなんて……」
「あの、輝さん?えっと、出張の時にもなんて。え?」
私は、輝さんの言葉に、大きく反応してしまった。
怒っているとわかる厳しい表情に、どう言葉をつなげればいいのかわからず、艶ちゃんに促されるまま腰掛ける。
すると、そんな私と輝さんを交互に見遣りながら、艶ちゃんは何を気にする風でもなくカウンターに肩肘をついた。
「とりあえず、ビール。そして、輝さんの手料理をいただこうかな。ふみちゃんがいっつもおいしいって言ってるから、私にも味見くらいさせてよね」
ふふっと笑う艶ちゃんに、輝さんは「もちろん用意してるよ。今日は魚料理だけど大丈夫かな?」と軽く言いながら、表情を緩めた。
ここに来るまでにナンパされたことを艶ちゃんが口にして、場の空気が冷たくなったような気がしたけれど、ようやく普段と変わらないものに戻った気がする。