極上の他人


「輝さん?えっと、メモ……返してください」

恐る恐る呟いた私に一瞬視線を向けた輝さんは、再びメモにその視線を戻すと、小さく笑った。

「虹女の女の子からもナンパされるなんて、さすが史郁だな。まあ、ナンパについて行かなかったご褒美に、今日はデザートのアイスを大盛りにしてやるよ」

輝さんは、それまで見せていた不安げな顔をすっと消すと、余裕を含ませた声でそう言った。

そして、その手の中にある、ナンパしてきた男性からもらった名刺と、真奈香ちゃんの連絡先が書かれた紙をぎゅっと握りしめ、何気なくズボンのポケットに忍ばせた。

どうして、名刺とメモを私から取り上げたんだろう……。

当然の思いが私の中に浮かぶけれど、何故か輝さんに聞いてはいけないような気がしてじっと見つめるだけ。

視線を合わせても、輝さんは普段と同じように軽やかに笑い、今日用意してくれている夕食のメニューを教えてくれる。

「私のアイスには黒蜜をかけて欲しいなあ」

「ああ、たしかあったはずだから、用意するよ」

「うわっ。ラッキー。私、アイスならどれだけでも食べられるから、超大盛りで」

「了解。その前に、夕食を食べてからな」

沈む気持ちを抱えている私とは対照的に、艶ちゃんは楽しげに輝さんと話している。

輝さんが真奈香ちゃんの連絡先を自分のポケットにしまいこんだことに気付いていないんだろうか。

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