極上の他人
思い出す度に苦しくなるせいか、必死で仕事をしていたけれど、仕事が終われば今日も輝さんがいつものように迎えに来てくれて、そして食事をいただくことになる。
輝さんから離れるつもりはないし、簡単に好きと言う気持ちを捨てることもできないけれど。
まだ、私にはショックを受けた心を隠して輝さんに会う自信なんてないし、手間をかけて用意してくれているだろう夕食を食べても、きっと味なんてわからないはずだ。
第一、食欲もない。
そんな私にとって、亜実さんからの申し出は渡りに船で、輝さんに会わずに済む絶好の理由になる。
輝さんへの思いが消えたわけではないし、側にいたいという気持ちもあるけれど、せめて今日だけは、気持ちを落ち着けるためにも会わずにいたい。
私は輝さんの表情や声を心の片隅に押しやって、亜実さんに大きな笑顔を作ってみせた。
「あ、亜実さんが良ければ、お邪魔したいです。葉乃ちゃんへのメッセージも任せてください」
必要以上に大きな声をあげた私に亜実さんは驚いているけれど、特に何を言うこともなく頷いた。