極上の他人
好きなんです



「……亜実さん?」

亜実さんは戸惑う私をじっと見つめると、小さく息を吐いた。

「輝くんとほとんど毎日一緒にいるんだから聞いてるよね。まあ、輝くんが黙っていても、いつかはふみちゃんの耳に入るだろうし、輝くんが自分で言ったとしても不思議じゃないよね?」

視線を落とし、ためらいがちな声で呟く亜実さん。

その言葉の意味がわからなくて首を傾げる私に気づかないのか、俯いたままで言葉を続けた。

「大丈夫。輝くんと、虹女の女の子とのことは噂だけ。塾で輝くんが生徒に手を出すなんてことをするわけないよ。輝くんは生徒をかばって、自分ひとりで責任をとったのよ。
休日、偶然会ってお茶していただけだっていうのに、どうして塾の先生を辞めなきゃならないのか未だに釈然としないけど」

「手を出す……」

「あ、だからそんなの嘘っぱちだから。単なる誤解だし、生徒だけでなく保護者からの評判も良かった輝くんが塾の講師をやめる必要なんてなかったんだから。ね、そう思うでしょ?」

早口で向けられる荒い声を聞きながら、予想もしていなかった事実に心は揺れた。


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