極上の他人


輝さんが以前塾の講師をしていたことは、亜実さんからお見合いの話を持ち込まれた時に聞いているけれど、どうしてその職を辞して今は『マカロン』の店長をしているのか、聞く機会はなかった。

「あ、あの、ふみちゃん?」

言葉を失い、視線が定まらない私に気付いた亜実さんは、うろたえながら私の顔を覗き込んだ。

「ふみちゃん、もしかして、えっと、知らなかった……?」

「……どのことですか?塾の女の子に手を出したこと、ですか?」

ぼんやりとした思考の中、小さくそう呟いた。

手を出す、そう口すると、なんて乱暴で雑な言葉だろうと感じる。

その言葉の印象以上に、輝さんがそれに関わっているのかもしれない、と思うと更に気持ちは落ちていく。

まさか、そんなことしないと思うけれど、たとえ塾の先生と生徒だとはいっても人間なんだから、お互いの気持ちを寄り添わせることだってあり得るし、仕方のないことだと思う。


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