極上の他人


輝さんから私が離れる時が来るとすれば、それはきっと輝さんがそれを望んだ時。

そんな日がいつかくるだろうと覚悟に似た思いがあるけれど、それでも今は、離れる苦しさよりも、一緒にいる切なさを選んでしまう。

輝さんと出会って、大切にされて、少しずつ、そう思うようになっている自分に驚きながら、それでも離れられずにいる。

ぼんやりと切ない思いを巡らせていると、気持ちを切り替えたような亜実さんの明るい声が響いた。

「色々話してあげたいことはあるけどね、輝くん本人から聞いたほうがいいから、もう何も言わない。
でも、輝くんがふみちゃんを大好きだっていうのは、誰が見てもはっきりしてるんだけどな」

ふふっと笑った亜実さんは、テーブルの上に置かれていた日本酒の瓶を手に取った。

「このお酒ね、輝くんが大好きな銘柄だから、渡してくれる?どうせ、あと5分もしないうちにやってくるはずだし。……あーあ、ふみちゃんにはうちに泊まってほしかったけど、輝くんにかっさらわれそうだし、今回は諦める」

「かっさらわれるだなんて、そんなこと……」

「ははっ。私が輝くんにふみちゃんと一緒に帰るって電話した時の彼の第一声はなんだったと思う?
“勝手に史郁を連れて帰るな”だったんだよ。いつからふみちゃんは輝くんのものになったんだろうね……?ね?」

からかうような瞳で私の顔を覗き込む亜実さんにどう答えていいか困っていると、来客を告げるチャイムが鳴った。

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