極上の他人
「あーあ。相当飛ばしてきたみたいだね。……ほんと、ふみちゃんのことが気になって仕方がないって感じ」
立ち上がり、玄関へ向かう亜実さんの背中を見ながら、私の体はどんどん熱くなっていると感じた。
亜実さんから言われた言葉の全てを信じるわけではないけれど、輝さんにとって私はまるで恋人のような存在ではないかと錯覚をおこしそうな図々しい感覚がうまれる。
絶対に、そんなことないのに。
と言い聞かせながらも、やっぱり期待してしまう自分にも気づく。
でも、輝さんには恋人が……。
ぐるぐると同じ場所を回る不安定な感情に疲れ、ため息を吐いた時、玄関から慌ただしい足音が聞こえてきた。
振り返ると。
「史郁。……帰ろう」
私の体を震わせる優しい声とともに目の前に立った輝さん。
迷うことなく私の前にすっと手を差し出した。
「史郁、ほら」
そう言って、手をひらひらさせる輝さんの瞳には、私がそれを拒むなんて許さないとでもいうような強い光が浮かんでいて、私は魅入られたように右手を重ねた。